「通級による指導」とは、
通常のクラスに在籍している子どもたちが、障害のために勉強や生活で困っている場合に、その困りごとを乗り越えて、自分らしく成長できるようにするための特別なサポートです。
どんな子が対象?
言葉の障害、自閉症、情緒の障害、弱視、難聴、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)など、さまざまな困りごとを抱える子どもたちが対象です。
特に、発達障害への社会的な理解が進んだことで、以前は見過ごされていた困りごとが認識されるようになり、このサポートを利用する子どもが増えました。
どうやって受けるの?
サポートの受け方は主に3種類あります。
* 自校通級: 自分の学校にある特別な教室で指導を受けます。
* 他校通級: 自分の学校に教室がない場合、他の学校の教室に行って指導を受けます。
* 巡回指導: 特別な指導を行う先生が、子どもが在籍する学校を訪問して指導を行います。
この制度は、小学校と中学校では1993年から始まり、高校では2018年から新たに導入されました。
利用者が増えているのはなぜ?
近年、「通級による指導」を受けている子どもたちの数は、全国で約20万人(2022年度)に達し、急速に増え続けています 。これは、発達障害が特別支援教育の対象になったことや、社会全体で発達障害への認識と理解が深まったことが大きな理由と考えられます。
地域や学年によるサポートの差
「通級による指導」は広がっているものの、残念ながら、住んでいる地域や学校の種類(小学校、中学校、高校)によって、受けられるサポートに大きな差があるのが現状です。
地域による差
* 先生一人あたりの生徒数: 先生一人で見る生徒の数が、都道府県によっては最大で4倍も違うことがあります。これは、手厚いサポートを受けられるかどうかに直接関わります。
* サポートを受けられる生徒の割合: サポートが必要な生徒のうち、実際に受けられている生徒の割合も、地域によって最大8倍もの差があります。
* 教室の設置状況: 公立学校では、小学校の約78%に教室があるのに対し、中学校では約50%、高校ではわずか10%程度にしか設置されていません。
なぜ差が生まれるの?
主な原因は、自治体の「財政力(お金の余裕)」と「特別支援教育への力の入れ具合(政策の優先順位)」です 。お金がある自治体でも、特別支援教育をどれだけ重要視するかによって、サポートの充実度が変わってきます。逆に、財政的に厳しい地域でも、独自の工夫で手厚いサポートを提供している例もあります 。また、先生たちの専門知識の有無や、学校への配置状況も影響しています。
高校でのサポートの課題
高校では、「通級による指導」の制度が始まってまだ日が浅いこともあり、特に課題が多く見られます。
* 利用者が少ない: 高校でサポートを受けている生徒は、全体のわずか0.1%と、小中学校に比べて非常に少ないです。
* 利用しない理由: サポートが必要と判断されても、約3割の生徒が実際に受けていません。
一番多い理由は「本人や保護者が希望しなかった」ことです 。これは、サポートを受けることへの抵抗感(周りの目が気になる、成績や進路への影響を心配するなど)や、制度が十分に知られていないことが考えられます。
* 先生の専門知識不足: 高校の先生の多くは、特別支援教育の経験が少ないのが現状です。そのため、困っている生徒を「怠けている」と誤解してしまうこともあります。
* 個別のサポート計画が難しい: 高校の授業は教科ごとに先生が違うため、生徒一人ひとりの困りごとを把握し、個別のサポート計画を作るのが難しいという課題もあります。
* 施設の不足: 高校の通級指導教室の設備が十分に整っていないことも、課題の一つです。
文部科学省の取り組みと今後の方向性
このような課題に対応するため、文部科学省は様々な取り組みを進めています。
* 先生の専門性を高める: 先生たちが特別支援教育の専門知識を深めるための研修を充実させたり、新しい先生の免許制度を整えたりしています。
* 「チーム学校」で協力: 先生たちの負担を減らし、多様な困りごとを持つ生徒を多角的にサポートするために、学校全体で協力する「チーム学校」の考え方を推進しています 。医療や福祉など、学校の外の専門家とも連携を強化し、乳幼児期から社会に出るまで切れ目のない支援を目指しています。
* 授業の柔軟化: 「通級による指導」の場で、必要に応じて教科の勉強もできるようにする案や、通常のクラスの授業内容も生徒の困りごとに合わせて柔軟に変えられるようにする案が出ています 。ただし、単なる「補習塾」にならないように、明確なルール作りが求められています。
* 「インクルーシブ教育」の推進: 障害のあるなしに関わらず、誰もが一緒に学び、お互いを尊重し合える社会を目指す「インクルーシブ教育」を強力に進めています。その一環として、特別支援学校と通常の学校が協力して運営するモデル事業も始まっています。