10日間連載の2日目は「対象障害の幅」と、そこから“こぼれ落ちる”子どもたちについて。
1️⃣ 通級が正式に想定している9つの障害
文部科学省の手引では、通級指導教室は次の9カテゴリーの児童生徒を主な対象として設置されています。
•弱視
•難聴
•肢体不自由
•病弱・身体虚弱
•言語障害
•情緒障害
•自閉症(知的遅れのない ASD)
•学習障害(LD)
•注意欠陥多動性障害(ADHD)
2006 年の制度改正で LD・ADHD・ASD が追加され、対象は広がりましたが、分類自体は現在も9つにとどまっています。
2️⃣ それでも“支援の網”から抜けやすい子どもたち
制度の枠組みや運用の実態によって、「該当しない」「居場所がない」と感じやすいのが次のようなグループです。
•境界知能や軽度知的障害(IQ 70 前後)
診断基準上は知的障害に該当せず、通級の9分類にも入らないため、支援の選択肢が乏しい。
•“2E”高い認知能力と発達障害が併存する
学力面は高いのに対人面で大きなつまずきがあり、通常学級でも支援学級でも合わない。
*2E(ツーイー)とは?
(“Twice Exceptional(2つの例外性をもつ子ども)”の略称で、「高い認知能力・才能(ギフテッド)」と「発達障害や学習障害などの困難」という2つの特性が同時に存在する子どもを指します。日本語では「二重に特別な子」と訳されることもあります)
•発達性トラウマ・愛着障害がある
医療診断がつきにくく、情緒障害とも重なるが、通級の枠外とみなされることが少なくない。
•教科限定型の深刻な LD
LD 対応の通級があっても「ことば」「ASD」中心で、学習障害への専門的指導が受けにくい地域がある。
3️⃣ “取りこぼし”が発生する3つの構造的要因
1.診断ベースの線引き
制度が医療診断や IQ を基準にしているため、グレーゾーンは「存在しない」ことになりやすい。
2.教室の専門分化と偏在
多くの自治体で「ことば」「こころ」など2〜3タイプのみ設置。LD や2Eの専門性をもつ教室・教員が不足。
3.人員格差と研修機会の偏り
担当教員1人が受け持つ児童生徒数に最大4倍、支援員配置に最大6倍の地域差があるという調査も。
4️⃣ 保護者・支援者としてできるのは、
1.現状を可視化する
区市町村ごとに「どの障害の通級が何校あるか」を調べ、公開データや問い合わせで一覧化してみましょう。
2.学校と具体的に対話する
「診断名は出ていないが困難がある」「別の障害だが教科支援が必要」など、子どもの“困り感”を根拠に提案。
3.柔軟なカリキュラムを求める
中央教育審議会では 7 月 4 日に、通級でも教科指導を可能にする方針が示されました。保護者の声が制度を後押しします。
「診断名より、目の前の困難を起点に」
取りこぼしゼロを実現するためには、制度の枠を広げるだけでなく、学校・行政・地域がフラットに協力し合う姿勢が不可欠です。
明日は DAY 3「指導内容—“自立活動”だけで足りる?」 をお届けします。