日本の法令で定められている障害種別は、主に教育の分野において、生徒の特性に応じた適切な支援を行うために9つの区分に分けられています。
特別支援学級や通級指導教室の対象となる障害種別の区分、それぞれの特性と、どのような支援が考えられるかについての説明です。
☆知的障害に関しては次回説明します。
1. 言語障害
内容: 言葉の発達に遅れがあったり、発音に間違いがあったり、吃音(どもり)など、言葉によるコミュニケーションに困難がある状態を指します。話すことだけでなく、相手の言葉を理解することにも困難が見られる場合があります。
具体的な例: 年齢相応の単語や文を話せない、特定の音を正しく発音できない、言葉がスムーズに出てこない(繰り返したり詰まったりする)など。
支援の例: 発音や構音の訓練、言葉の理解力を高めるための指導、コミュニケーション方法の工夫(絵カードや文字の活用など)。
2. 自閉症スペクトラム障害(ASD)
内容: 対人関係の困難、コミュニケーションの困難、特定の物事への強いこだわりや反復行動といった特徴を持つ発達障害です。感覚の過敏さや鈍感さが見られることもあります。一口に自閉症といっても、その特性や程度は様々です。
具体的な例: 他者の気持ちを読み取ることが苦手、目を合わせない、会話のキャッチボールが苦手、特定のルーティンに強くこだわる、特定の音や光に過敏に反応する、特定のテーマに強い興味を持つなど。
支援の例: ソーシャルスキルトレーニング(SST)による対人関係の学習、構造化された環境での学習(見通しを持たせる)、感覚特性への配慮(静かな場所での学習、刺激の調整など)、興味・関心事を活かした学習。
3. 情緒障害
内容: 精神的な不安定さから、学校生活や日常生活において、集団に適応しにくい、行動が不安定になるなどの困難がある状態を指します。不安、抑うつ、不登校、多動性、衝動性などがみられることがあります。
具体的な例: 強い不安感から学校に行けない、気分が落ち込みやすい、落ち着きがなく授業中に席を離れる、衝動的に行動してしまう、友達とのトラブルが多いなど。
支援の例: 精神的な安定を図るためのカウンセリング、安心できる環境の提供、ストレスを軽減する工夫、感情のコントロール方法の指導、自己肯定感を高める支援。
4. 弱視
内容: 眼鏡やコンタクトレンズを使用しても、一般的な視力では日常生活や学習に困難がある状態を指します。全く見えない「全盲」とは異なり、光を感じたり、ぼんやりと形を認識できたりする場合があります。
具体的な例: 黒板の文字が見えにくい、教科書の小さな文字を読むのが難しい、段差や障害物につまずきやすいなど。
支援の例: 拡大読書器や拡大教科書の使用、ルーペの活用、座席の位置の配慮、点字の学習、音声ソフトの活用、拡大提示など。
5. 難聴
内容: 耳が聞こえにくい、または全く聞こえない状態を指します。音の聞こえ方は個人差が大きく、補聴器や人工内耳を使用しても、完全に聞き取ることが難しい場合があります。
具体的な例: 会話が聞き取りにくい、チャイムの音が聞こえない、テレビの音量を大きくしないと聞こえない、名前を呼ばれても気づかないなど。
支援の例: 補聴器や人工内耳の活用、座席の位置の配慮(話者の口元が見える位置)、筆談、手話、要約筆記、字幕の活用、FM補聴器などの機器の利用。
6. 学習障害(LD:Learning Disabilities)
内容: 全体的な知的発達に遅れはないものの、読む、書く、計算する、推論するなどの特定の学習能力に著しい困難がある状態を指します。脳機能の偏りによって生じると考えられています。
具体的な例: 文字の読み書きが極端に苦手(書かれている文字を認識できない、文字をきれいに書けない)、文章を理解することが難しい、数字の計算ができない、図形や位置関係の理解が難しいなど。
支援の例: 教材や課題の難易度調整、視覚的な情報や聴覚的な情報を多角的に活用、ICT機器(タブレット、音声読み上げソフトなど)の活用、個別指導、得意な分野を活かした学習。
7. 注意欠陥・多動性障害(ADHD:Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)
内容: 不注意(集中できない、忘れ物が多い)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(思いつくとすぐ行動してしまう)といった特性が持続的に見られ、日常生活や学習に困難がある状態を指します。
具体的な例: 授業中に集中できない、課題を最後までやり遂げられない、忘れ物が多い、落ち着きなく席を離れる、順番を待てない、感情的になりやすいなど。
支援の例: 集中できる環境の整備(刺激の少ない場所での学習)、課題の細分化とスモールステップでの提示、スケジュールやルールの明確化、声かけや視覚的な手がかりの活用、休憩時間の確保、自己コントロールの練習。
8. 肢体不自由
内容: 手足の動きに制限がある、体が麻痺しているなど、運動機能に困難がある状態を指します。脳性麻痺、脊髄損傷、筋ジストロフィーなどが含まれます。身体の動きが困難なため、日常生活や学習活動に制約が生じることがあります。
具体的な例: 車椅子での移動が必要、歩行が困難、鉛筆や箸をうまく使えない、ボタンの着脱が難しい、特定の姿勢を長時間保てないなど。
支援の例: バリアフリー環境の整備(段差解消、手すり設置)、補助具(装具、車椅子、自助具など)の使用、リハビリテーション、筆記補助具やパソコンなどのICT機器の活用、移動や着替えなどの介助。
9. 病弱・身体虚弱
内容: ぜんそく、心臓病、腎臓病、糖尿病、慢性的なアレルギー疾患、がんなど、慢性の病気により、体力や体調の管理に特別な配慮が必要な状態を指します。入退院を繰り返したり、通院が必要だったり、特定の活動に制限があったりすることがあります。
具体的な例: 定期的な治療や服薬が必要、体調を崩しやすく疲れやすい、感染症にかかりやすい、体育や給食などに制限がある、急な発作や症状が出ることがあるなど。
支援の例: 定期的な医療的ケア(服薬介助、血糖値測定など)、体調に合わせた学習ペースの調整、ベッドでの学習や訪問教育、安静時間の確保、食事内容への配慮、心理的なサポート、欠席時の学習補償。
以上の区分は、生徒の支援を考える上での目安であり、幾つかの特性を併せ持つ生徒や必要な支援は多様です。大切なのは、それぞれの特性を理解して、生徒が安心して学び、成長できる環境にいることです。